one structural engineer
SCENE_3 中央合同庁舎第7号館
2. 葛藤の日々
このプロジェクトでは、超高層建物が2棟(官庁棟および官民棟)と、戦前から残る旧文部省本庁舎の一部を保存活用した保存棟から構成されています。当社の構造設計部は官民棟および保存棟を担当することになり、官庁棟の構造設計は設計企業体の他社が担当することとなりました。もちろん、各社ごとに担当を割り振ったものの、基本的な設計方針については各社の合意のもとで進めます。また建物に求められる性能は、発注者である国からの「要求水準」として厳正に定められており、この要求水準を逸脱することはたとえどんな些細なことであっても許されません。
さて、このプロジェクトを入手した2003年当時というのは、日本経済が最も停滞しながらも、現在にいたる好景気にむけて徐々に回復しつつある時期でした。さらに、隣国の中国では来るべき北京五輪にむけ、世界中からあらゆる物資をブラックホールのように飲み込みはじめた時期でもあり、このプロジェクトも例外にもれず資材、特に鋼材価格の高騰の余波をまとも被ることになります。
幸いこのPFI事業の幹事会社が製鐵会社であったため、そのような鋼材の高騰に対しても優先的に安く鋼材を調達できるだろうとたかをくくっていましたが、世の中そんなに甘くはありません。モノはそれをより高く買ってくれる人のもとへ流れていくのが資本主義というもので、たとえ幹事会社が製鐵会社であっても、鋼材は我々のもとには安く割り振られることはありませんでした。 そのうち、
「建物の鋼材量をもっと減らせないのか?」
「建物を鉄筋コンクリート造で作れないのか?」
「建物を合理的に建設するその他の方法はないのか?」
などの様々な意見が、各方面から構造設計者に向けられることになりました。