気持ちのいい場所をつくりたい
SCENE_6 おわりに
僕にとって旅は癒しであると同時に仕事の糧であり、必要不可欠なものだ。どんなに美しい写真よりも、どんなに多くの文献よりも、どんなに含蓄のある建築家のことばよりも、旅は場所と建築の関係についてより多くのことを教えてくれる。実際、これまでの設計の殆どにおいて、旅で見た情景が着想の原点となっている。自分はおおよその学生さんが当たり前のように知っている有名な建築や流行に疎く、建築論に関する知識もない。論理的な思考を積み重ねることが苦手なので直感的にしか物事を判断できない。それでも、旅先で見た風景のイメージを手掛かりに模索しながら何とか設計はできてしまうものだ。だから建築はやめられないし、旅も又やめられない。もちろん一人の力では何もできず皆が協力しあって初めてかたちになることは言うまでも無い。様々な立場の人が、ひとつの目標に向かって苦労の日々を重ねた末に、やっと建築は姿を現す。それを目にした時の感動は格別だ。
「総合建設業の設計」というと、都市開発などのビッグプロジェクトの設計を想像しがちだが、今回ご紹介した”棚湯”のように、地域の方々と密接に関わり、実際に施設を利用する方々の想いをダイレクトに感じ取れるプロジェクトも数多く手がけている。建築を志す学生の皆さんが、そんな総合建設業の設計に少しでも興味を持っていただけたら幸いだ。
- 高橋 秀秋 HIDEAKI TAKAHASHI
- 「次のお休みで行きたい場所は?」との問いに、「海外ならクロアチア、スペイン中西部、イタリアのアドリア海側。国内なら山陰地方の漁村、などなど」とのこと。若い頃から旅が大好きという高橋らしい、なかなかこだわりのある答えである。今後の彼の作品で、果たしてどこの旅先で得たインスピレーションが反映されるのか、乞うご期待!