- 用途
- 学校、劇場
- 所在地
- 京都府京都市東山区
- 延床面積
- 5,292.99m2
- 階数
- 地下1階、地上2階
建築設計コンセプト
祇園文化を継承するための耐震改修
京都を代表する伝統伎芸「都をどり」の会場である祇園甲部歌舞連場の耐震補強の計画です。
現在の歌舞練場は、大正2年(1913年)に建設されています。その後、増築・改築を繰り返し、戦前・戦後の一時期に軍需工場への転用や連合国軍の接収を経ながらも、建物は存続していました。昭和27年(1952年)に建物が連合国軍から返還された際に、歌舞練場としての機能を取り戻すための大規模改修が実施されました。以降、現在に至るまで当時の姿を保ち、登録有形文化財に指定されていますが、耐震性の問題が指摘されたため、平成28年(2016年)以降は休館された状態にありました。
今回の工事では、舞台・客席機能を有する歌舞練場の本館と、そのエントランスにあたる玄関棟の耐震補強を実施しました。特に文化的価値が高いと評価される劇場内部空間には、耐震補強部材を露出させない計画を採用し、外観についても工事前の姿を保つことを試みています。かつての姿を美しく保存する耐震改修により、祇園町でこれまで受け継がれてきた文化的営みが今後も継承されていくことを目指しました。
また歌舞練場は、「都をどり」のために劇場であると同時に、祇園甲部の花街に所属する芸舞妓のための稽古場である「技芸学校」としての機能も有しています。
改修工事前の技芸学校は、本館から独立した建屋として戦後に建設されていましたが、機能的に更新の必要があったことから、創建当初の建物配置にならい、本館に接続して増築することとしました。技芸学校は、「都をどり」の際の楽屋としての機能も有していることから、本館と接続した形式によって、さらなる劇場機能の向上が期待されます。
増築部分は、歌舞練場のデザインコードを現代的に昇華した意匠を採用することで、これから先も歌舞練場とともに愛される建物となることを目指しました。
構造設計コンセプト
大規模木造の文化財に対する耐震補強
本建物は、大正2年(1913年)創建の大規模木造建物であり、既存屋根の木小屋組みやそれを受ける木桁トラス、および周辺木軸架構・土壁に劣化や破損、改変が見受けられることから、長期荷重および地震荷重に対して補強を行うこととしました補強の設計コンセプトおよび施工時のポイントを以下に挙げます。
補強の設計コンセプト
(1) 長期荷重は、小屋組みなどに必要な補強を行った上、原則として既存木造部に支持
(2) 屋根木小屋組みを受けている木桁トラスの状態が悪いため、これには期待せず、鉄骨ガーダーを更新・新設して屋根小屋組みを支持
(3) 既存木造部分の劣化が顕著で各所の健全性が不明快なため、建屋に作用する地震力を100%負担する補強鉄骨フレームを建屋内部に構築
現状の建築外観を損なわず、かつ内部空間への影響も最小限とするため、小径部材を組み合わせた鉄骨フレームを採用
さらに補強鉄骨フレームの基礎は、回転圧入による小径鋼管杭を打設し、地震せん断力およびフレーム軸力を地盤に伝達
施工時のポイント
屋根小屋組みを解体しない状態・既存木部材が存在する状況での施工であったため、以下の点に配慮しました。
(1) 杭は、重機の大きさに制限があったためできるだけ小径の鋼管杭で設計を行い、施工上も部分的に溶接接手を1mピッチで配置
(2) 小屋組の補強は、事前に長期荷重をジャッキアップして荷重を受け替えた上で実施。小屋組補強プレート施工完了後にジャッキダウン
(3) 補強鉄骨フレームは、既存の骨組みを囲いながら(避けながら)設計を行い、実際の既存木の位置を正確に把握した上で細心の注意を払いながら施工を実施
担当
担当 | |
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設計 | 大成建設株式会社関西支店 |
大成建設担当者 | |
建築設計 | 荒木宏之、内藤多加志 |
構造設計 | 西本信哉、笹井弘雄、坂口裕美、吉岡伸悟、山形有紀 |
設備設計 | 湯浅孝、安藤直也 |
電気設計 | 湯浅孝、木谷宇 |
法規 | 藤原稔 |
保存検討 | 松尾浩樹、杉江夏呼、関山泰忠、中谷芙美子 |
受賞
2024年 | ITVA-日本 CONTEST 2023 社外・コミュニケーション部門 銀賞 |
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