- 用途
- 複合開発(病院、クリニック、店舗、事務所、エネルギーセンター、共同住宅、ホテル、駐車場)
- 所在地
- 北海道札幌市厚別区
- 延床面積
- 114,028.23m2(I街区全体)
まちづくりコンセプト
「まちなか集積医療」による都市拠点の再編
札幌市の副都心、新さっぽろ地区で進む大規模再開発です。駅前の市営団地跡地、約1.6haを複合開発するI街区は、郊外にあった3つの病院を公共交通の結節点である駅前に誘致し、「まちなか集積医療」による先導的なまちづくりとして注目を浴びています。さらに医療複合ビルや商業施設、ホテル、集合住宅を組み込むことで、「ミクストユース(用途複合)」による新たな賑わいを創出しています。ガスコージェネレーションによるエネルギー消費の平準化、効率化を図り、コンパクト&スマートシティによる都市拠点再編モデルとなることを目指しました。
景観デザインコントロールによる調和の取れた街並み
街区全体をデザインコントロールし、建築・外構・道路を一体的にデザインし統一感のある街並み形成に配慮しました。また、街区の各建物は建築主、設計担当者が異なることから、色彩、素材、ディテール、照明などはデザイン調整会議を何度も開催して綿密に調整を行いました。街のコンセプト「活彩都市」から導き出された「彩帯(いろおび)」をキーワードとして、札幌の景観色70色の中から各医療施設のテーマカラーを設定し、白を基調としつつ各建物の個性を演出して彩りのある街並みを実現しています。外灯照明は3500Kを基調とし、街区としての統一感と温かみがある照明計画としています。
街の顔となる広場整備によるウォーカブルなまちづくり
街の入口となる両側に広場を整備して、賑わいと憩いのオープンスペースを街の顔としています。南側にある「リンクガーデン」は、子育て支援施設が隣接することから、子どもが楽しく遊べる「遊環構造」の園路としてマウンドを上り下りして遊べます。緑や生き物のことを学べる環境サインも設置しました。また、高齢者が木陰で休憩できるベンチも多くつくり、誰もがウォーカブルな街となることを目指しています。
アクティブリンクコンセプト
新しいまちの中心・シンボル「アクティブリンク」
また、I街区の新設道路上空には、円環形状の空中歩廊「アクティブリンク」を設置し、再開発で展開される複合用途の建物群を結んでいます。
これにより、2階レベルでの歩行者ネットワークを年間を通じて形成できること、リンク内側に隔たりをつくらない開放的な構成により刻一刻と変わる楽しさや歓びのある歩行体験ができること、まちの建物が一望でき新しいまちの中心であることが感じられることなどの効果があります。これらを通じて「アクティブリンク」が、新しいまちのシンボルとなることを意図しました。
「アクティブリンク」の楽しい歩行体験のために
円環形状の「アクティブリンク」での歩行体験をより楽しく歓びが感じられるよう、様々な工夫を施しました。
求められる様々な機能は、すべて外周部と天井面に集約し内側部をガラスのみで構成し、まち全体を一望できるようにしました。
外周部に採光・通風の開口部、換気・電気・防災設備を設置し、各建物との接続部を設けました。天井面に照明・幹線・防災・SP設備を設置し、これらは中央付近に集約し、等間隔設置のアングル上で支持しました。さらにそのアングルを活かし、安東陽子氏デザインの、札幌の四季を通じた自然の豊かさや彩りを表現する多彩なテキスタイルを連続させ、歩くごとに変わる様子を楽しめるよう意図しました。また、円環形状を活かし、一周を一年間に見立て二十四節気の床サインを設け、テキスタイルの彩りとも連携させました。
使い続けられる活きた場を目指して
機能的だけでなく、体験としても楽しく歓びのある場となることを意図した「アクティブリンク」ですが、使い続けられる活きた場となるためには、実際に使われる周辺建物の利用者や地域住民によって通行する場だけでなく、このカタチを活かした様々な使い方が日常的に展開されることが大切と考えました。例えば、整形外科の患者さんがリハビリで活用する、マンション住民が冬にウォーキングやランニングで利用するといったものから、市民ギャラリーとして地域の小学生の作品を外周部に展示する、といったものなども考えられ、展示物のための小穴やどこにでもマグネットが付く鋼板による構造など、小さな配慮も施しています。
今後は、私たち設計の想いを、日常的な利用を展開するエリアマネジメント組織と共有し、活きた場として使い続けられることを願っています。
「雨や雪が吹き込まない屋根付きの歩道橋」としての環境デザイン
「アクティブリンク」は、豪雪の札幌の特性を踏まえ「雨や雪が吹き込まない屋根付きの歩道橋」という機能コンセプトとし、年間を通じて利用者が安全に歩行できる環境を目指しました。
一方、夏期での温度上昇が懸念されたため、空調設備がないため建築的な室内環境までは提供できませんが、環境シミュレーションを行い、5回換気設備、屋根面断熱強化、日射量の多いガラス面に遮熱ロールスクリーンを設置しました。
さらに、冬期の積雪による雪庇シミュレーションを行いました。発生リスクは低かったため、屋根面には万が一雪庇が発生した際にヒーターが設置できるよう電源供給まで行い、雪庇落下による歩行者等への安全配慮を行っています。
構造設計コンセプト
空中に浮かぶ軽やかで開放感のある構造
楕円形鋼板の屋根、床からなるコの字状の空中歩廊を外周側の12本の変断面BOX柱で支持しています。柱間にサッシ枠を兼ねた側柱によるフィーレンディール架構を形成し、回廊内側はガラスサッシのみとすることで軽やかで開放感のある構造計画としています。
基礎は、柱1本に対して杭3本の独立基礎で支持し、各柱の鉛直力、水平力を上部構造から基礎、杭へ伝達させる計画としました。
設備設計コンセプト
ガスコジェネとCEMSによる先導的スマートコミュニティの実現
I街区ではガスコジェネのエネルギーセンターと情報ネットワークを整備し、AIを活用したCEMSによる最適化運転で電気、温水、冷水を各建物に供給することにより、CO2排出量35%削減を目指しています。エネルギーの供給側と需要側をITでつなぎ、街区内外のエネルギーを最適化する先導的スマートコミュニティを実現しました。
さらにエネルギーセンターの余熱を利用したロードヒーティングを行い、エネルギーの効率的利用による多雪地の機能性向上を図っています。
また電力引き込み、地震に強い中圧ガス管、さらに非常用発電を含む多重化により医療施設に重要なBCP対応も強化しています。
担当
I街区開発プロジェクト(全体計画) | |
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設計 | I街区設計チーム(大成建設一級建築士事務所、株式会社ドーコン、株式会社ネイ&パートナーズジャパン、株式会社フィルド) |
ランドスケープ(設計協力) | LAMD、景空間設計 |
サイン(設計協力) | ダイアグラム |
大成建設担当者 | |
全体統括・都市計画・ランドスケープデザイン | 川崎泰之 |
建築設計・まちづくり | 下手彰、川崎泰之、佐々木直大、須藤拓、西村浩一、出口亮、岩崎篤 |
設備設計 | 龍英夫、川島尚子、伊藤里佳子 |
電気設計 | 龍英夫、松村保彦、相馬俊也 |
エネルギーセンター | 村田義郎、岡本隆、星野顕、清水賢 |
ロゴデザイン | 山﨑信宏、稲垣玲 |
アクティブリンク | |
設計 | I街区設計チーム(大成建設株式会社一級建築士事務所、株式会社ネイ&パートナーズジャパン、株式会社ドーコン) |
テキスタイル | 安東陽子デザイン |
サイン(設計協力) | ダイアグラム |
大成建設担当者 | |
建築設計 | 下手彰、出口亮、西村浩一 |
構造設計 | 池間典一、長谷川姿、村上勇樹 |
設備設計 | 龍英夫、山本進、川島尚子 |
電気設計 | 龍英夫、藤間一憲、相馬俊也 |
環境シミュレーション | 大木泰祐 |
受賞
2024年 | 第49回 北海道建築賞 審査員特別賞 |
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2023年 | 第26回 グッド・ペインティング・カラー 最優秀賞(メディカルエリア) |
2022年 | グッドデザイン賞 |