- 用途
- 美術館
- 所在地
- 大阪府大阪市都島区
- 延床面積
- 4,214.36m2
- 階数
- 地下1階、地上2階
- Technology & Solution:
- 藤田美術館
建築設計コンセプト
本建物は、公開承認施設として承認を受けることを見据えた美術館の建替え計画です。
「藤田美術館」は、美術品が明治維新を機に海外へ流出したり国内で粗雑に扱われたりすることに危機感を覚えた藤田傳三郎氏が残した美術品を世に広めるべく昭和29年(1954年)に開館しました。
「これらの国の宝は一個人の私有物として秘蔵するべきではない。広く世に公開し、同好の友とよろこびを分かち、また、その道の研究者のための資料として活用してほしい」という藤田傳三郎氏の想いを引き継ぎ、美術品を子供からお年寄りまでが、触れて・みて・話す美術館を目指しました。
敷地は大阪城のふもとに位置し、明治半ばから大正期にかけ関西経済界の重鎮・藤田傳三郎翁の大邸宅「網島御殿」と呼ばれた場所にあります。
時代の流れの中で、傳三郎氏と息子・平太郎氏の屋敷庭は大阪市に、徳次郎邸は「太閤園」に、彦三郎邸は大阪市公邸(現在は結婚式場に活用)に寄贈され、開館当時の面影は塀で閉じられ無くなっていました。
敷地の面影を再現し、次世代に藤田家の思いをつなげるという目的をもって、広大な大阪市所有公園(毛馬桜之宮公園)と「藤田美術館」の間の塀を無くし、庭と繋げ、「西側道路境界の塀もオープンな形で、昔の面影をつなぎました。かつての土地の記憶を呼び戻し、新たに人が集う場を作ることで、文化・芸術の発信拠点として、より多くの人に愛される美術館、歴史を体感できる美術館を実現しました。
また、100年以上美術品を守り続けてきた古い蔵の部材を再利用し、歴史の継承の在り方を追求しました。
戦災により失われた邸宅内には40を超える茶席が存在したといわれ、様々な茶会が催されました。新しく建設された茶室「光雪庵」は、かつて存在した「会庵」の平面を基に再構築し、藤田家席名と部材を旧美術館の茶室から引き継ぎました。
構造設計コンセプト
展示室・収蔵庫を有する建物中央部分は、鉄筋コンクリート造の壁で囲まれた構造体とし、旧藤田美術館の蔵と同様の構造形式としました。
エントランスを含む周辺部は鉄骨造で構成しましたが、鉄骨大屋根の地震力をコンクリート壁に伝達・負担させることで、鉄骨大屋根の部材断面(梁、柱)を最小化しています。さらに、鉄骨大屋根とコンクリート壁の接続部トップライトに、構造体の影を落とさないため、水平ブレースを設けないように配慮しました。
また、低層部(広間)の地下躯体は本体躯体からの跳ね出しにより形成し、杭基礎を設けないことで、隣接する鉄道施設(大阪地下鉄)への地下制限区域への杭・基礎の進入を回避しました。
設備設計コンセプト
国宝、重要文化財を含む多くの美術品を収蔵する本計画では、安心・安全な建物環境の中で、文化財を守りつつ、省エネルギー、快適性等に配慮した設備計画を行いました。
公開承認施設として承認を受けることを見据えた計画のため、文化庁および東京文化財研究所等と協議の上、室内温湿度や照度等を設定しました。
収蔵庫や展示室等は、急激な温湿度変動による美術品の劣化が生じないように恒温恒湿空調としました。
収蔵庫は、庫内周囲に二重壁(断熱材厚さ50mm)を設けて、二重壁内の空調を行い、外乱の影響を抑えました。
展示室は、展示内容や可動式間仕切り位置に合わせて空調制御が可能なように可搬式センサーによるフレキシブルな空調制御システムとしました。展示品は展示及び保護のため、専用の展示ケースに収めるとともに高性能スポットライト(Ra96以上/照射角カッター付き/狭角・広角の絞り調整など)を採用し、レースウェイ設置とすることで、展示の自由度が高い照明計画としました。
計画時には、温熱・気流シミュレーションを実施し、風量および制気口配置等の最適化を行い、竣工時には、実測にて室内の温湿度・気流分布を検証し性能を確認しました。
土間広場は、ハイサイドライトによる自然採光、自然換気を計画し、光環境シミュレーションやモックアップ実験等にて検証を行いました。さらに温冷感指標(PMV)による空調制御を導入し、利用者の快適性に配慮しました。
インテリアは、時間の移ろいの中で徐々に照明の色温度を変化させるとともに、エクステリアのライトアップと併せた照明計画とし、景観への配慮を行いました。
茶室は、風炉先窓が外壁に面しないレイアウトとなったため、光ダクトにより外光を建物内に誘導しました。外部と連動して明るさが変わるため、より自然に近い採光が可能な計画としました。
ランドスケープコンセプト
「藤田美術館」が使命として掲げる「知を得る」場として、日本の伝統的な「庭の文化」と「園の芸術」に親しむ「知の庭園」を目指しました。
庭園中央の茶室の前には外露地と内露地をコンパクトにまとめた本格的な茶庭を設け、茶の湯に没頭できるよう美術館順路との間に竹林を配しました。
露地のつくばいや灯ろうは旧美術館のものを再利用しています。
茶室の反対側には大正期に高野山から譲り受けた高さ10m近い多宝塔を新しく造成した高台に曳家し、山腹の塔の庭を再現しました。
周りには東大寺のつくばいや飛鳥時代の礎石などを配置し、回遊しながら歴史に親しむことができます。
また隣接する大阪市所有公園(毛馬桜之宮公園)の一部を竹、松、紅葉の園として整備したことで公園と庭園がお互いの借景となり、価値を高め合っています。
担当
担当 | |
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設計 | 大成建設株式会社関西支店 大成建設株式会社一級建築士事務所 |
大成建設担当者 | |
建築設計 | 平井浩之、渡邉智介、宮本育美 |
構造設計 | 西本信哉、岩井昭夫 |
設備設計 | 湯浅孝、永吉敬行 |
電気設計 | 木谷宇(後期)、坂下泰志(前期) |
伝統・保存建築 | 松尾浩樹(多宝塔保存改修計画) 杉江夏呼(既存建物調査) 関山泰忠、中谷扶美子(茶室設計) |
ランドスケープ | 山下剛史、西島知明 |
受賞
2023年 | 日本建築士会連合会 建築作品賞 奨励賞 |
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2023年 | 環境・設備デザイン賞 BE賞 |
2023年 | 第66回 大阪建築コンクール 大阪府知事賞部門 大阪府知事賞 |
2023年 | 作品選集2023 |
2023年 | 第41回 大阪まちなみ賞 奨励賞 |
2022年 | グッドデザイン賞 |
2022年 | JIA日本建築家協会優秀建築選2022 100選 |
2022年 | インテリアプランニングアワード2022 優秀賞 |
2022年 | SDA賞 入賞 |
2022年 | 日本空間デザイン賞2022 博物館・文化空間部門 金賞 |
2022年 | 令和4年度 日事連建築賞 奨励賞 |
2021年 | 令和3年度 おおさか環境にやさしい建築賞 大阪市長賞 |
2021年 | 第10回 みどりのまちづくり賞(大阪ランドスケープ賞) ランドスケープデザイン部門 公益財団法人国際花と緑の博覧会記念協会長賞 |