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WORKS 2019

浅草花劇場

用途:劇場
所在地:東京都台東区
延床面積:1,460.67m2
地上:4階

建築設計主旨

歴史を紡ぎ、新たな象徴を創る
古くから続く浅草花やしきの園内に、日本伝統文化と現代文化を融合した作品やアーティストによるコンサート、格闘技など様々なエンターテインメントを発信していく劇場の計画です。
園の象徴的建造物であった「Beeタワー」と呼ばれる鉄塔を解体し、その跡地にこの劇場を建設することから、新たな象徴としての姿を求められました。
そこで、浅草花やしきの原点に立ち返り、歴史を紡ぎながらも新しい象徴として親しまれる劇場を目指しました。
「浅草花やしき」は、1853年に花園(かえん)として誕生し、人々の休息の場として、またお見合いの席や茶室としても人気のある場所でした。「花やしき」の名前の由来はそこから来ています。現在の「花やしき」も園内にはたくさんの植物が植えられており、園内の雰囲気を作り出しています。
そこで、「浅草花やしき」の由来でもある花の文化、及び浅草という日本文化を代表する地にあることを踏まえて、日本人に最も馴染みのある「桜」を大きなデザイン要素として取り入れることにしました。
デザイン手法として、表層的な模倣だけでなく、桜が作る「お花見空間」をこの建築にも取り入れ、劇場という機能だけでなく、園内の憩いの場を創出することを目指しました。

建築全体で「桜」を体現する
ボリューム計画は、ホール・共用部・バックヤードの3つを分離し、その間に隙間空間を作り出して、園内の外部空間を連続させると共に、園外の風景と接続する計画としました。
ボリュームの分離によって生じたピロティやテラス、屋上空間が憩いの場となり、閉じた劇場空間を取り巻く環境となります。
隙間空間を立体的に繋げる屋外階段は、途中分岐させるなどの工夫を凝らし、園内の遊具と呼応する「アスレチックステア」として、移動行為をアフォードする設えとしています。
外装はガルバリウム鋼板の菱葺を採用し、桜色を表現する4色のパネルをランダム配置しています。
菱葺の特徴である下から上にかけて重ね合わせるように貼り込む形式によって、桜の花びらが舞い落ちる動きを表現できるようにしました。
さらに、0.8mm厚のガルバリウム鋼板を手作業で貼り合わせる時に生じる歪みが、僅かにランダムな陰影を作り出し、人工的な表層にならないように考慮しています。
建物の中心を作るコア部分の外装は、リブ付きのALCを使用し、吹付けタイルの凹凸、職人の手癖によって表層の「粗さ」をあえて作り出し、桜の幹を表現しています。

多彩なエンターテインメントに対応する劇場計画
ホール計画では、多様な演目に対応した劇場を作りたいという要望を元に、プロセニアムアーチ形式を主体とした3層吹抜けの空間を計画しました。
ホール1階部分は、スタンディング形式など多様な演目に合わせて客席配置計画が出来るように平土間形式としています。
ホール2階はバルコニー席として、またホール3階は立見席として、吹抜けを中心に3方囲った形態を取っており、本設するステージでの演目のみならず、吹抜け内にステージやリングを設置してイベントが可能になるアリーナ形式にも対応しています。

構造設計主旨

架構形式は純ラーメン構造とし、劇場のフレキシビリティを損なわないよう配慮しています。
ピロティ部およびバルコニー部の柱は、外観に配慮して円形鋼管とし、EVホール横の柱も多方向から大梁が接続することから施工性に配慮して円形鋼管を採用しました。
北面のステージ側は、各階片持ち梁を引っ張りブレースで吊り上げる架構とすることで、1階ピロティに柱を落とさない計画としています。
園内から見える東側の屋外鉄骨階段は、間柱が外に現れないよう屋内側の柱から片持ち梁をはね出して階段を支えています。
片持ち梁は、意匠性に配慮して梁成250mmのビルド材とし、片持ち梁先端にささらを通すことで片持梁断面が外観に現れない納まりとしています。
このように柱梁といった階段の支持部材を隠すことで、屋上までつづくササラが強調され、アスレチックのような印象的な屋外階段を表現しています。

設備設計主旨

中央にリングを配置したプロレスやシュートボクシング、ステージを利用した舞踊ショーや演劇等、あらゆる演目に対応できることを主眼に置いた設備計画としました。
ホール内吹抜け下部となる客席中央への空調は、吹抜け空間を取り囲む3階床下の斜め天井面に設置した自動風向調整機能付きノズル吹出口により行い、舞台部については、キャットウォーク上部にノズル吹出口を設置し、気流により暗幕やスクリーンが揺れないよう風向・風速に配慮した計画としています。
桜をモチーフにした特徴的な外壁面をアピールするため、給排気は屋上およびピロティやテラスの軒天から行う計画とし、機能性と意匠性を実現しています。
浅草花やしき園内の憩いの場、観光バスの待合所等、周囲に解放されたスペースとして利用される1階ピロティの照明計画は、天井にランダムに配置されたルーバー材に合わせて同一形状のライン照明を混在させ、意匠形態と合わせた計画としました。

担当

担当
設計 大成建設株式会社一級建築士事務所
大成建設担当者
建築設計 山本実、加藤順一、常田悠太、倉光晴美
構造設計 藤永直樹、川口恵、木村暢志
設備設計 高木淳、吉田千亜紀、芳岡里美
電気設計 高木淳、藤間一憲