建築設計主旨

音響に配慮した窓のない建築をまちとつなぐ
－クレッシェンドファサード
半世紀を超える歴史をもつオーケストラの、練習施設老朽化に伴う新しい練習施設の計画です。
駅前立地における街との良好な関係と、多様な楽団編成に適応する室内音響が求められました。
騒音を遮る無窓の外壁は、形態を分節してスケールを落とし、徐々に街へ溶け込ませました。（デクレッシェンド）
一方、駅前広場からのアプローチは、エントランスゲートからホールボリュームに向かって徐々に大きくなる形態が、練習に向かう楽団員の高揚感を演出します。（クレッシェンド）
ファサードに象嵌された五線譜が音楽施設らしさを表象し、凛として優しい風景を奏で、地域のシンボルとなることを企図しています。
エントランスホールはガラス張りとしており、沿道のベンチに腰掛け耳をすませば、蓄音機のホーンのようなエントランスゲートを介して演奏の余韻を感じることができるかもしれません。

ホールを調律する
ホールの室内音響設計では、指揮者や演奏者が、それぞれの楽器の音をクリアに聞き取れることを求められました。天井中心部を反射面とし、壁面に水平方向の凹凸を設けて室の中心に向かってわずかに傾けることで、演奏者に音が返りやすい形状としました。
また、高さ4mまでの耳に近い壁面には、スライドパネルによる反射・吸音可変領域を設け、音の響きや初期反射音の聞こえ方を繊細に調整できるようにしています。

ホームスタジオへの愛着をデザインする
楽団はこの新しい練習所で、この先永きにわたり、読響サウンドを培っていくことになります。
建築内部には、至るところに五線譜モチーフを採用し、ホームスタジオに愛着と誇りを持てるデザインとしました。

構造設計主旨

本建物の用途は、交響楽団の練習施設であり、練習音が外部に漏れないこと、および、近隣を走る小田急線の騒音を内部に伝えないことが要求されたため、遮音性を確保するべく鉄筋コンクリート造を採用しました。
ホール外周は壁厚300mmとし、耐震壁に活用することで、遮音性とともに建物の耐震安全性を高める計画としています。さらにホールを低層部がとりまくプランにより、ホール部分の水平剛性を補っています。
約19mスパンの大空間が必要となるホールの屋根架構には、鉄骨トラスを採用しています。
なお鉄骨トラスは屋根架構と天井材受けの2つの役割を兼ねるため、音響的に決定された天井勾配に合わせて下弦材を傾斜させ、天井下地を直接取り付けています。これにより天井吊り材が無くなり、天井懐内が簡素化されるとともに、天井の耐震性も向上させました。
一方、トラス成が天井懐全高を占めてしまうため、設備ダクトを自由に展開できるよう、トラスのスパン中央部は、斜め材の無いフィーレンデールトラスとしました。

基礎形式は、既製杭の杭基礎とし、杭頭にF.T.Pile構法を採用することで、地震時の杭および基礎梁に作用する応力を低減させるとともに、フーチング内の配筋の納まりを簡素化して施工性を高めています。

設備設計主旨

クラシック音楽の演奏をなりわいとするプロオーケストラの楽団員が、日々の練習を快適に行える環境を創出することを第一に考え、シンプルで維持管理費を抑えられる設備計画としました。
ホール内の空調は、楽団員が演奏に集中できる環境と、楽器への影響に配慮し、静穏性・安定した温湿度環境・穏やかな気流であることが求められました。
静穏性に対しては、消音器の設置等により確実に空調騒音を抑え、室内空調騒音レベルNC-20を達成しました。
ホールは天井面から空調空気を吹き出し、足元に均等に設けられた還気口から吸い込む計画としています。天井高最大10mの大空間で、冬季においても暖気が十分に居住域まで達する、安定した温湿度環境を実現しました。
天井制気口に気流の拡散性に優れるアネモを採用したことは、局所気流が発生しない演奏に集中できる環境づくりに大きく貢献しています。
ホール内のLED照明器具の設計照度は1500Lxとし、手元の楽譜が見やすい均一な器具配置に配慮したほか、調光制御により設定照度が可変できる、省エネにも配慮したシステムとしています。

担当

担当
基本設計・監修	三菱地所設計株式会社
実施設計・監理	大成建設株式会社一級建築士事務所
大成建設担当者
建築設計	伊藤真樹、武市章平、酒井江梨子
構造設計	藤永直樹、倉本真介、木村暢志
設備設計	梶山隆史、藤田協二、柳田祐里
電気設計	梶山隆史、有馬京吾
音響設計	買手正浩、野島僚子、増田潔

社外受賞

2019年	第63回　神奈川県建築コンクール 一般建築物部門 優秀賞

Technology & Solution：

読売日本交響楽団練習所