建築設計主旨

計画の背景
越後一の宮を冠する彌彦神社は、創建の正確な年代は不明ですが、伊夜比古神社記に「和銅四年（711）神域を広げ社殿を造営した」とあり、1300年を超える歴史ある神社です。
現在の拝殿は、大正5年に伊東忠太氏による設計で再建された建物であり、平成27年は、この再建（ご遷座）より百年の記念すべき年でした。
このご遷座百年を記念して様々な記念事業が計画・実施されましたが、このご神苑の整備事業は、その主事業の一つです。
ご神苑の範囲には、神社の維持管理を統括する林務課の事務所兼作業場及び祭器具のストックヤードの他、弓道場、土俵、鹿苑、日本鶏舎等の施設が配されていました。
これらの施設は、主たる参道から外れていることもあり、整備が遅れていたエリアとなっていましたが、これを機に、参拝者の方々が憩い、且つ神事を行うに相応しい施設を再配置・再構築する事業を実施する事となりました。

再配置された施設群
・林務課事務所及び作業場：複数の建物を統合してご神苑を管理し易い位置に再配置（弐期工事）
・日本鶏舎及び鹿苑：北側のエリアに再配置（弐期工事）
・弓道場：ほぼ同じ場所に全日本弓道連盟規格の道場として再構築（参期工事）
・相撲場：相撲連盟規格土俵、観覧席・屋根を備えて再構築（参期工事）
・みずほ館：初穂講神事を行う他多目的な活用を意図し新築（参期工事）
・厠棟：表参道の参拝者の利用も考慮した位置で再配置（参期工事）
各建築は、彌彦神社の建物として相応しい統一感をもった外観で設計されています。
神事を執り行う施設である弓道場とみずほ館は、入母屋形式の瓦屋根の建築となっていますが、この屋根の荘厳でありながら繊細な曲線を表現するために下部を鉄骨造・上部（屋根部分）を木造とした混構造で設計されています。
屋根瓦は、神社内の別の社殿でも採用されている寒冷地に適した新潟県産の安田瓦です。
また、他の建築群でも同様ですが建物の随所に本整備事業にて止む無く伐採した境内地の「ご神木」が再利用されています。神事を行う施設としては、もう一つ、相撲場もあり、神明造を模してデザインされた外観となっています。

構造設計主旨

神苑整備事業における建物群の中では、弓道場の射場棟と相撲場が目を惹きます。
射場棟は瓦屋根が特徴的で、外観上は伝統木造に見える建物ですが、6人立ちの弓道競技規格で必要となる19mのスパンを実現するために、天井レベルの梁までは鉄骨造ラーメン構造としています。
鉄骨造とすることによって、射場は12m×19mの無柱空間としています。
鉄骨梁の上部からは木造として構造の構成を単純化し、宮大工らによる職人の技を如何なく発揮できる作業環境としました。
射場棟と同様の屋根を有するみずほ館についても、同じ構造の構成としています。
屋根が主に直線で描ける相撲場は、屋根下地までを鉄骨造として、神明造の屋根を4本の柱で軽々と持ち上げているような形状としています。

設備設計主旨

設備計画については、内外装共に木材を素材とした「和」の雰囲気の建物に調和する様心がけています。
弓道場は、施設用途から空調設備を必要としませんが、競技会開催時等に審査員が着座するスペース等には建築の造作の一部に空調を組み込み、ある程度の快適な環境を提供可能としています。
また、全ての施設に共通して、杉材で構成された格子天井や屋外も含めて各所に設えた照明器具は「和」のデザインに調和する様配慮されています。
屋外の配線工事は全て地中化し、建物外部の不用意な露出設備は徹底して排除しています。
錯綜していた既存の架空配線については丁寧に調査を行い、社務所からの構内放送や内線電話等の機能を、 地中配線に盛替えて再生しています。
電力引込や給水引込も更新し、施設再配置に伴うインフラの整備を行っています。

ラントスケープ設計主旨

整備されたご神苑は「第弐桜苑」と命名されています。
四季折々の変化に富んだ風景を生み出す工夫がなされた「お庭」として参拝者の方の憩いの空間となる様に計画されました。
ほぼ中央に位置する大島桜に代表される桜のシンボルツリーに始まり、種々の桜や中低木が神苑内の随所に配され、散策する参拝者の目を楽しましてくれます。
参道自体も神社では標準的な階段や砂利の道を極力少なくし散策しやすい様に整備されています。
各建物にも一休みすることが出来るベンチ等が設えてあり、相撲場の観覧席は平時から解放され、気候の良い時には腰かけて休憩を取られる参拝者の方々を多く見かけます。

担当

社外受賞