デザインディテール研修
- 課題:アルゼンチンのコンクリートブロック造の小住宅の開口部ディテールを考察
丹羽 貴之(建築)
2008年入社
「ディテールには神が宿る」という表現はよくあるが、ディテールには魔が宿っているように、私には思えた。
ディテール研修の初日。今回の課題となる、アルゼンチンに計画された小住宅、そのチェッカー模様のように連続する開口部を写真で見たときは、こんなのちょっと考えればすぐに分かるだろ、という印象をもった。
私は正直に言えば、今までディテールに全く興味がなかった。書籍等でも何度か詳細図、所謂ディテールは見ていたが、批評家が絶賛するようなディテールも、図面を見ている私にはその凄さが全くといっていいほど理解できていなかった。ディテールについてはミースや村野藤吾といった建築家の名前がよく挙がるが、そういった巨匠の方々のディテールを見ても、ふーんっていう具合だった。
ディテール研修を終えた今だから少し分かるが、いろんな制約の中で試行錯誤されているディテールの、その制約等を全く踏まえないまま書籍のページをめくっていたのだろうし、何よりも、他人のディテールを読むということと、実際に頭で考え手を動かして自分のディテールを書くということは違ったのだろうと思う。コロンブスの卵みたいに。
とにかく私のディテール研修はとても軽い気持ちで始まった。こんなのに3日も要らないよとさえ思っていた。
しかし、である。考え始めるといろんな問題にぶつかる。なんとなく接合部を抽象化しながら、悪く言えば誤魔化しながらスケッチを描いていた頃はまだよかったが、ちょっと具体的に部材と部材の取り合いを考え始めると、とたんに手が進まなくなる。
今回の課題作品は、外観を見るとコンクリートブロックとガラスだけで構成されているように見える、禁欲的で美しい作品だ。ガラスとコンクリートブロックが直接取り合っているのか?でも色ガラスの入った開口部の中には、開閉できるものもある。ってことはサッシュがあるのか?でも写真で見る限りサッシュは見当たらない。そもそもサッシュはコンクリートブロックとどう接合されているんだ?写真で見る限り、サッシュはコンクリートブロック全体に乗っかっているんじゃなくて、コンクリートブロックの断面の1辺の厚み(25mmほど)の中に納まっているように見える。
まさしくディテールに宿っている魔が顔を出し始めたのである。
学生の頃なら絵をなんとなく書き上げることもできただろうけど、工場見学や現場研修を通して、部材の作り方や特性、取り付け方等を色々学んでしまった今は、迂闊に変な線を書くことができない。
それは接合できないでしょ。そんな部材つくるのコストがかかりすぎるでしょ。いくらなんでもそんな厚みに穴は空けれないよ。いろんな問題を指摘する声がチームのメンバーから上がる。
悪戦苦闘の末、図面を書き、模型を作り終えたのは、提出間際のことだった。初日の印象を覆す大苦戦の末に完成した案だが、プレゼ中に気付く。「あっ、これ止水できてないじゃん」。
ディテールに宿る魔を手なづけ、神とするためにはまだまだ精進が必要そうだ。