GRC工場見学
- 協力:旭硝子ビルウォール株式会社協力工場 株式会社タムラ大利根工場
各務 篤史(建築)
2005年入社
今回の工場見学は、これまで見学した建材の中で比較的新しく、最近になってより注目されているGRCの工場である。GRCについて、あまり馴染みがなかったので、好奇心をもって臨んだ。
GRCの「G」は、グラスファイバーのことで、正しくは「ガラス繊維強化セメントコンクリート」のことである。工場自体は、これまで見学したものの中では、さほど大きくないが、型枠作成、打設、養生までがコンパクトに集約されていた。実際に、GRCパネルを作成しているところを見学することができたのだが、非常に細かいガラス繊維とセメントを、吹付塗装のようにスプレー状に型枠に吹付け、所要の厚みが得られるまで重ねていく。
ガラス繊維がかなり高い密度でモルタルの中に混じっているので、通常のコンクリートに比べて靭性が高く、強度試験では肉眼で見ても明らかなたわみが確認できた。
強度が高く、少しずつ重ねて行くというという施工性ゆえに、意匠性が高く、自由な曲面、異種建材を埋め込む事などができる。多くの建築家もこの可能性に注目しており、最近では、青森県立美術館やルイヴィトン銀座などに用いられているものなどは、この工場で作られたそうだ。実際にこれらのスタディに使われたサンプルなどが工場のいたるところに散乱していたのには正直驚いた。様々なスタディの残骸があふれ返った、大学の製図室を思い出した。ここでは、GRCという建材の可能性を模索するスタディが、一流の建築家らによって行われているのだ。
私は、GRCの意匠性に最も興味を持った。一般的なコンクリートは、20世紀初頭から、自由な造形力があるとして注目を浴びた建材である。型枠さえ作成できれば、どのような形でも作ることができると当時から知られていたが、引張強度が全くといっていいほどないので、鋼材による補強が必要となり、実際には自由な造形とは言いがたかった。ところが、このGRCは、一定の引張強度・曲げ強度を負担できるので、鉄筋をいれなくともかなり自由な形状を実現できる。工場にもあったような擬岩や、ガラスを埋め込んだ通光性のあるパネル、鋼材のような曲面形状の柱脚など、どのような姿・形にでも化けることができる。
20世紀の近代化運動の中にあっては、鋼材は鋼材らしく、コンクリートはコンクリートらしい、合理的な表現が追求され、現在では既に「それらしい」表現が一定の完成度を見ることが出来る。しかし、このGRCにはまだまだGRCらしい表現は確立されていない。
まだ新しい造形の可能性が拡大し続けている建材なのだ。いずれは21世紀の建築の一角を成すことになるのかもしれない。今回の工場見学は、その可能性を発見し、建築に対するモチベーションを奮い立たせるものとなった。