様々な距離をつくる
デザインセッションとは
デザインセッションとは、活躍中の若手デザイナーやクリエイターをゲストとして招き、ゲストが日頃考えているテーマについて、参加者が共に考え、作品を作り、その作品を媒介として、デザインについて深く掘り下げようとする企画です。
今回その第1回目として、安中環境アートフォーラム国際コンペで最優秀賞を取るなど活躍中の建築家・藤本壮介氏をゲストに迎え、藤本氏がこれまでに関わってきたプロジェクトと密接にリンクする「様々な距離をつくる」というテーマを巡って意見を交換していきました。
プレゼンテーション
まず出題されたテーマに対して、大成から7案、藤本氏から5案の提案がプレゼンテーションされました。各案での「様々な距離をつくる」手法は様々でしたが、今回のセッションでフォーカスされたのは、藤本氏が発言したように「(ここでいう)距離とは物理的な距離ではなく、何かと何かが関係するときの関係の度合いであって、そのような多様な関係を建築でどうやって作るか」ということでした。
大成からの提案の多くが(出題文の影響もあるのですが)スケールを設定し、より具体的な建築の手法としてこの問いに解答しようとしていたのに対して、藤本氏の案、芦谷(大成・G案)のパフォーマンスはシンプルでありながら、その距離による「関係の度合い」をA1サイズの紙を用いるというレギュレーションの中でより鮮やかに示すものでした。
大成建設社員による提案
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- マウスオーバーで写真を拡大できます。
藤本氏の案
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ディスカッション
プレゼンテーションされた案についてディスカッションを進めていく中で、この「多様な関係」を実現するために今回プレゼンテーションされた提案のいくつかと藤本氏のこれまでのプロジェクトとの共通点が浮かびあがってきました。
それは2つの視点による思考が同時に存在するという点です。つまり、建築の中を移動しながら刻々と変化する関係によって場所性を与えていくことと同時に、俯瞰した視点から抽象化された形式として建築を思考している点です。本人はそれ程意識されていなかったようですが、この2つの視点を往復する思考方法の結果が、「一つの建築」の中に「多様な関係」を持つ藤本氏のプロジェクトの魅力となっているのではないでしょうか。奇しくも参加者は、出題されたテーマについて考えていく内に、藤本氏の無意識下での思考方法を辿っていたということになります。
今回の「様々な距離をつくる」というテーマは、インターネットの発達によって距離の概念が改変された現代において、大変興味深いものでした。その中で「十分に離れていることを作り出せることにリアルな建築の可能性がある」という藤本氏の発言は今後の建築の姿を考える上で非常に示唆的な意味を持つものでした。