港区立郷土歴史館等複合施設は、港区白金台に位置する公共複合施設です。
歴史的建造物である旧公衆衛生院を、耐震改修と用途変更の上、郷土歴史館・がん在宅緩和ケア支援センター・子育て関連施設・区民協働スペースなどとして活用しようとするものです。
創建当時の意匠や技術などの価値を保存すると同時に、積極的な利活用に応えるために既存建物を現行法規に適合させ、最新設備を導入し再生しました。
「安全・安心」に使い続けられる建物とするため、バリアフリー化、及び公共施設としての耐震安全性（Iso値＝0.75）を確保する耐震補強を行いました。
本計画のように大規模な歴史的建造物を保存しながら新たな用途へ転用し活用する例は稀であり、近代建築を永く上手に使い続けられる好例として、この建物が広く愛され生き続けることを目指しました。

改修の特徴

歴史的な建造物を公共の複合施設として改修するこの整備工事の最も大きな課題は、利活用と保存のバランスでした。
そのため実施設計と並行して全室（約300室）の既存部材の保存状況を調査・確認を行い、各室ごとに保存グレードを設定して設計・施工の拠りどころとしました。
保存グレードは、旧公衆衛生院の意匠や保存状態といった文化財的な価値と、本改修工事による耐震補強をはじめとする改変行為の内容を総合的に判断し、各室の保存と改変を掛け合わせた度合いを6段階に分けて設定しました。
中央階段や旧院長室など、旧公衆衛生院の歴史・意匠上重要な空間であり、創建時の姿を完全に留めていた室は、耐震補強要素の設置を一切行わず、空間や内装を保存しました。
一方、旧研究室や事務室など同様の空間が多数存在し、かつ既往の改変によりすでに創建時の姿を留めていなかった室には、耐震補強要素をできるかぎり集約し、保存グレードの高い部屋への設置を減らしました。

T.G-Wall

「T.G-Wall」は異種材料である鋼板と強化ガラスを組み合わせた斜め格子状の耐震補強工法です。
透明性の高い強化ガラスを座屈補剛材として活用することで、地震力を負担する斜め材鋼板厚みを22mmに抑えています。
通常の鉄骨ブレースとは違う繊細な意匠を活かし、1階カフェと2階コミュニケーションルームに計3台採用しました。