炭素繊維シートとCFアンカーによる既存建築物の耐震補強工法の研究開発と普及展開
2004.04 「2004年日本建築学会賞」受賞
概要
1995(平成7)年の兵庫県南部地震を契機に、既存建物の耐震診断・耐震補強件数が急増しました。既存建物の耐震補強は社会的要請であり、また、居住したままで施工が可能な技術が求められています。
これに応える技術として、それまで個々に開発を進めていた企業が情報交流を行い、1997(平成9)年4月、技術の普及展開を目的とするSR-CF(Seismic Retrofit by Carbon Fiber Sheet)工法研究会を発足、その後の研究により炭素繊維シートによる建築構造物の耐震補強工法SR-CF工法を開発・確立しました。
当工法は既存コンクリート系部材のせん断強度を改善するもので、軽くて丈夫な炭素繊維を用いた点に特徴があります。また、CFアンカーを併用することにより、炭素繊維シート補強のメリットである施工性・安全性・静粛性はそのままに、壁付き柱やスラブ付き梁・耐震壁にも、独立性と同様に高い効果が得られます。
2001(平成13)年2月に(財)日本建築防火協会の技術評価を取得するとともに、平成13年度国土交通省技術開発賞を受賞しました。
この技術の開発と普及展開への努力が認められ、「2004年日本建築学会賞(技術部門)」を受賞しました。
受賞者 | 福島 順一(大成建設設計本部)、他社 |
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SR-CF工法の構造性能
SR-CF工法は、独立柱はもちろん、垂壁・腰壁付き柱、耐震壁、スラブ付き梁など、すべての耐震部材が対象です。数多くの構造実験に裏付けられた信頼性の高い耐震補強工法です。
- 壁付き柱も簡単に補強
- 強度不足の耐震壁も容易に補強
- スラブ上面をいためずに梁補強
炭素繊維で耐震補強した柱 耐震補強効果の実験
CFアンカーの特徴
CFアンカーとは、炭素繊維ストランドを束ねたもので、この束ねた炭素繊維ストランドの端部を扇状に広げて炭素繊維シートに接着します。
柱に壁が取り付いている場合に、柱に巻き付きた炭素繊維シートが壁によって分断されますが、壁に小さな孔をあけてCFアンカーを挿入し、分断された炭素繊維シートを繋ぐことにより、閉鎖型の補強層を形成します。
埋込型アンカー |
貫通型アンカー |
SR-CF工法の特徴
- 居住したままで短工期施工
鋼板補強やコンクリート巻き立てなどの工法に比べ、資材が軽量で大掛かりな機材が不要、さらに騒音や振動の少ない工法のため、居住したままでなおかつ短工期での施工が可能 - 大きな補強効果と高い信頼性
建物の耐震性能(耐力、変形性能)を向上させることができ、またこれらの信頼性を得るための評価方法を確立 - 広範な適用対象
建築年代や用途により鉄筋の種別(丸鋼、異形鉄筋)や構造形式(RC造、SRC造)など、違いがみられる各種構造に対応した補強設計法を確立 - 容易な施工
CFアンカーを用いるため、従来は施工が難しかった壁付き柱や梁、補強にもはつり作業がなく、また、アングルやあと施工アンカーなども不要、すべて炭素繊維で補強可能なため、施工が容易